先進諸国での失明原因の第1位は糖尿病網膜症!
糖尿病網膜症は、腎症、神経障害とともに、糖尿病の3大合併症のひとつとされる病気です。目をカメラでたとえるとフィルムの部分にあたる網膜に障害が起こるもので、最悪の場合失明に至る危険性が高く、非常にやっかいな病気とされています。
ほとんどの先進諸国において失明の原因の第1位は糖尿病網膜症であり、日本でも同様です。
日本では、毎年約3,000人もの人が糖尿病網膜症で失明するといわれています。そこで、糖尿病網膜症について詳しく紹介します。
糖尿病網膜症は、最悪の場合失明に至る非常にやっかいな病気
「糖尿病とは、どんな病気ですか?」と質問されたら、どう答えますか?
「血糖値が高くなる病気です」と、多くの方が答えるでしょう。しかし、糖尿病は単純に「血糖値が高くなる病気」ではありません。
糖は全身の細胞のエネルギー源ですが、この糖の代謝異常を起こす病気が糖尿病です。血糖値が高い状態が長く続くと、全身の血管系に異常が生じます。大きい血管が障害された病態、つまり「大血管症」では動脈硬化が生じ、脳梗塞や心筋梗塞が起こる危険性が糖尿病の人は正常な人の2倍から3倍に上昇するといわれているのです。
さらに、小さい血管、毛細血管に異常をきたした病態を「最小血管症」と呼び、この場合もさまざまな障害をもたらします。
たとえば、目の網膜にも毛細血管が縦横に走っていますが、この網膜も糖尿病によって血流が途絶えやすい部位です。網膜の血流が悪くなると、目をカメラでたとえるとフィルムの部分にあたる網膜の細胞に酸素や栄養を送れなくなります。そして、網膜は大きなダメージを受け、「糖尿病網膜症」という目の病気を合併するのです。
糖尿病網膜症は、最悪の場合失明に至る危険性が高く、非常にやっかいな病気とされています。さらにやっかいなのは、自覚症状がほとんどないため、気づかないうちに網膜症が進行し、いわば手遅れになるまで症状を自覚しないことが多いのです。
糖尿病網膜症は、病気の進み具合によって
- 無網膜症
- 単純性網膜症
- 増殖前網膜症
- 増殖網膜症
という4つのステージに分類されます。④が網膜症の最終ステージで、失明にいたる危険がきわめて高い状態ですが、この段階にいたっても初期には極端に視力が低下しないこともあります。そのために治療が遅れ、これが失明につながることもすくなくありません。その逆のケースもあります。つまり網膜症の程度が軽度であっても、視力が著しく低下することがあるのです。
糖尿病網膜症はどのように進むのか?
第1ステージ「無網膜症」
無網膜症は、糖尿病にかかってはいるけれども、網膜の状態を調べる眼底検査で何も異変が見つからない状態です。血糖コントロールの状態によりますが、一般的に糖尿病を発症してから10年ほどで、単純網膜症を発症します。
第2ステージ「単純性網膜症」
網膜症の第2ステージ「単純性網膜症」では、網膜の細かい血管は高血糖によってダメージを受け、コブのようなもの、つまり毛細血管瘤(もうさいけっかんりゅう)ができます。この毛細血管瘤から血液中の成分がもれると網膜はむくみ、つまり浮腫が生じます。また、タンパク質や脂肪などのカスがたまると、網膜に白いシミ状のものができます。この白いシミ状のものを「白斑」(はくはん)と呼びます。さらに、傷んだ毛細血管から点状の小出血が生じることもあります。
この段階で、血糖値を下げるなど内科的な治療を行えば、このような病変は治る可能性があります。しかし、単純性網膜症では自覚症状がほとんどないため、成人検診や眼科で眼底検査を受けない限り、この段階での網膜症が発見されることはありません。
放置すれば、網膜症はだんだん進行し、次のステージである「単純性網膜症」にいたります。
第3ステージ「増殖前網膜症」
網膜の毛細血管には小さな血の塊(血栓)ができ、毛細血管は閉塞していきます。
血流が途絶えた部分の網膜は酸欠状態に陥り、綿花が開花したような白い斑点が現れます。これを「綿花様白斑」(めんかようはくはん)と呼びます。また、血管の太さがソーセージのように不規則になり、くねくねと蛇行するなどの異常が出現します。
この段階になっても病変は網膜の周辺部から始まるので、黄斑部(網膜中心部で視細胞が密集している場所)が保たれていれば自覚症状が現れないことも少なくありません。
網膜は、詰まった血管に代わる新しい血管として、不完全でもろい血管である新生血管を作る準備を始めます。この新生血管が出現すると最終ステージである「増殖網膜症」にいたります。
第4ステージ「増殖網膜症」
増殖膜が収縮することで網膜は引っ張られて剥離してしまう。
この段階では、新生血管が出現するだけでなく、新生血管から出血も起こります。それでも、極端に視力が低下しないこともあり、異変に気づかない人もいます。
新生血管からの出血が硝子体に広がると硝子体出血と飛蚊症が生じます。硝子体出血が増えると、目の前に手をかざしても指の数が数えられないくらい視力が低下します。
また、新生血管の周辺に膜状の組織が作られるようになります。これを「増殖膜」といいます。増殖膜は硝子体や網膜の表面を足場にしてどんどん成長していきます。
増殖膜は成長過程で収縮する傾向があるのですが、増殖膜は新生血管を茎として網膜とくっついていますから、増殖膜が収縮することで網膜は引っ張られて剥離してしまいます。網膜剥離を起こした範囲が広がっていき、網膜全剥離になると失明ということになります。
網膜症がどんなにやっかいで、恐ろしい病気であるかおわかりいただけたでしょうか。もちろん、単純性網膜症の段階で発見・治療を行えば網膜症の病変は治り、視力低下を防げる可能性は十分あります。
増殖前網膜症、あるいは増殖網膜症でも障害の程度が軽い場合なら、治療によって視力を改善できる可能性は高いのですが、進行すればするほど治療は難しくなり、治療に成功してもよい視力が得られないのが現状です。
糖尿病網膜症の進行予防と治療方法
糖尿病網膜症は糖尿病の合併症ですから、原則、糖尿病を内科で治療する血糖コントロールが最重要課題となります。これは、網膜症のすべてのステージにいえることです。これを基本に据えて、網膜症の進行に応じた眼科の治療を行なっていきます。
無網膜症、単純網膜症の段階での治療は、血糖コントロールです。厳格な血糖コントロールにより、網膜症の進行を抑制できることが証明されています。また降圧剤や高脂血症治療薬の一部は、血糖コントロールに加えて網膜症の進行を防ぐことが報告されています。
前増殖網膜症の段階に至ると、失明を引き起こす可能性がある増殖網膜症へ移行するのを食い止めるために、レーザー治療を行うことがあります。無血管野にある網膜の細胞をレーザーで焼くことでその機能を奪い、新生血管の発生を防ぎます。このため、レーザー治療を行うことで少し視野が狭くなったり、暗がりで物を見る機能(暗所視)が落ちたり、目が慣れるのに時間がかかったりするようになることがあります。
これらの治療をしても増殖期に進んでしまった場合は、網膜剥離の原因となる増殖膜や硝子体出血の部分を取り除くために、手術が必要となることがあります。また、黄斑浮腫(おうはんふしゅ)に対しては、血液成分の漏れの原因となる毛細血管瘤への直接レーザー照射や、炎症を抑え血管から血液の成分が漏れ出すのを抑制するためにステロイド薬を眼球の表面へ注射する方法がこれまで行われてきました。
※黄斑浮腫/視力に大きな影響を及ぼす網膜の黄斑部がむくんでしまい、視力が低下する目の病気です。
まずは糖尿病にならないようにすることが大事です。暴飲暴食をせず、バランスのいい食事をとり、適度な運動を行いましょう。糖尿病は知らない間に発症します。健診を欠かさず行い、糖尿病とわかったら、すぐに内科受診をする必要があります。また糖尿病があり、内科を受診されている患者さんでも眼科を受診されていない場合は、ぜひ、眼科受診をおすすめします。
網膜症の発症と重症化を予防するには、糖尿病治療の継続はもちろん、早期の眼科受診と、適切な頻度での眼科定期受診がカギを握っているのです。
厚生労働省が発表した「2014年(平成26年)患者調査の概況」によると、糖尿病患者数は、過去最多の316万6,000人になっています。また、日本臨床内科医会などの調査によると、網膜症を合併する人は糖尿病患者の15~23%といいます。
さらに、厚生労働省が発表した「平成28年 国民健康・栄養調査結果の概要」によると、「糖尿病が強く疑われる人」は1,000万人と推定され、予備軍1,000万人を合わせるとその数は2,000万人を超えるという推計も出ています。
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